■口にしなくてもわかること
ジュノからレンタルした黄色いチョコボが2羽、パシュハウ沼を駆け抜けていきます。
俺とリサさんのチョコボです。
「どうです、最近の調子は」
俺は手綱を取ったまま振り向き、
同じくして後ろを走っていたリサさんに尋ねました。
「ええっと、お金が・・・かかります^^;」
彼女の素直で現実的な答えに、思わず苦笑いしてしまったものです。
ようやく目的地のベドーが見えてきました。
ああ、なぜ二人でベドーに向かっているのかって?
『残りはベドー?だけみたいです^^』
リサさんのその一言が決め手で、
彼女のミッションを手伝うことになったからなのです。
“魔晶石をさがせ”のミッション。彼女が飛空挺に乗れるのも目前です。
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見上げたベドーの空は、相変わらずの曇り空。
天気が良いことのほうが少ないように思えます。
さて。
とりあえずミッションで必要なアイテムを落とすNMを倒さなくてはなりません。
「初めて来ました」
ベドーに着いたリサさんは、物珍しそうに
辺りに広がるベドーの風景を見回しています。
ここ(入り口)で待ってて。すぐNMを倒してくるから。
そんな風に言ってあげるのが、きっと親切な冒険者なのかもしれません。
でも、俺は意地悪なのでそんな風には言いたくない。
ほら。俺が1人でNMを倒してしまうと、
入り口で待っているだけの彼女は、きっとつまんないでしょ?
少し危ないかもしれないけれど、
一緒にファイナルファンタジーの冒険を楽しみたいでしょう?
「折角なので、NMを一緒に倒しましょう」
って、口をついて言ってしまった後、大抵いつも後悔するんです。
勝手だったかなあ、って。
「はい^^」
・・・そうして
救われます。嬉しそうに返事をくれる人に。
「少し奥に進まなければならないけれど・・・大丈夫?」
「はい^^」
新しい冒険を目の前にして、心なしか嬉しそうに
くるくる走り回る彼女の軽い足取りが、
俺の気持ちも軽く舞い上げてくれます。
そうそう、忘れていました。
ベドーには
近づけばひどい“呪い”にかけられてしまう装置が幾つも設置してあります。
侵入者を阻むためでしょうか。
呪いにならないようにするためには、別の装置を起動させて、
自らを静寂状態に保っておかなくてはなりません。
とは言っても、レベルの高い俺に反して、
リサさんのレベルはまだ40にも満ていないのです。
からまれると危ないよね。
俺は彼女にスニークの魔法を唱えます。
ええ、今日の俺はサポ白で来ましたし、
常備薬のやまびこ薬も忘れずカバンに持ってきていました。
静寂を受ける装置のスイッチをリサさんと二人で押した後、
俺はリサさんに一つだけお願いをしました。
「スニークがきれそうになったら、言ってくださいね」
「はい」
返事が少し遅れて返ってきます。
ちょっぴり緊張されているのかもしれません。
「大丈夫。もしもからまれてしまっても倒せば良いから^^」
「はい^^」
大丈夫かな?
彼女がちゃんと後ろをついてきているかな?
幾度も振り返りながら、少しずつ奥へ奥へと進みます。
・・・リサのスニークの効果が切れた・・・
俺のモニタにログが流れます。
おや、切れてしまったか。
その場でリサさんにスニークを唱えようとした刹那、
彼女が慌てた様子で口を開きました。
「きれました」
「うん」
一生懸命に報告してくれた彼女にスニークを唱えます。
彼女はスニークの効果がかかるとホッとした様子で、
俺に向かって深々とお辞儀をしてくださいました。
「ありがとうです^^」
いえいえ。
『 “ 効果がきれそうだ ” のログが出たら
すかさず報告して、自分でその効果をきる・・・』
今の俺にとってはもうすっかり手馴れた当たり前の作業ですが、
彼女・・・、ええ、初めてする人にとっては、ややこしくて難しい作業です。
だから、一生懸命こちらに報告してくれる彼女を目にしていると、
自然とありがたい気持ちになってしまうってものです。
俺たちはベドーの奥に向かって、一歩一歩踏みしめて進んでいきます。
少しずつ、本当に少しずつだけれど
確実に。
・・・リサのスニークの効果が切れた・・・
「きれまし」
「た」
たどたどしく、律儀に報告してくれる彼女に、スニークを唱えながら。
ふふ。そんなに焦らなくても。
ふと気づきましたが、俺たちはほとんど会話を交わしていませんでした。
ええ、リサさんも、俺も、すっかり無口になっていました。
うん。きっとお互いに集中していたのです。
たしかに会話は消えてしまったけれど、
俺には色々なことが沢山伝わってきていました。
後ろを振り向けば、ぴったりとなぞるようにして、
一生懸命についてきている彼女が映ります。
俺が「からまれても大丈夫」なんて口にしてしまったものだから、
彼女はきっとその最悪の事態は避けるべく、一生懸命なのです。
そうして、「報告してくださいね」と言った、
ただ一つの俺との約束を、頑張って守ってくれているのです。
まるで俺の影踏みでもしているような彼女の動きが、
いじらしく思えて、ふっと笑いがこぼれそうになります。
以前、向き合った言葉を伝えたいという話をしたことがありました。
でもね。それとは正反対のことだってあるのだと思います。
言葉がなくたって、口にしなくたって
“ チャット ”になおさなくったって
わかる時もあるよ。
伝わってくることもあるんだよ。
「きれそうな赤い字ですっ」
それなら二人で、ここで少し立ち止まりましょう。
効果がきれたら新しいスニークを唱えます。
もう少し先まで、頑張ろうね。
新しいスニークがかかるたび
こちらに向かって丁寧なお辞儀をしてくれる彼女に、
俺も心の中で微笑むのでした。
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